はじめての雪合戦大会
ぼくが初めて雪合戦の大会に出場したのは贅沢にも第28回昭和新山国際雪合戦大会だった。
28回大会には早稲田雪合戦の会から1チームが出場した。チームといっても男女混合、さらには1年生から4年生まで全学年総出の"寄せ集め"チームだった。
当時の早稲田雪合戦の会は他のサークルとの勧誘合戦に敗れ慢性的な人不足であった。さらに練習環境の整備にも苦戦し、活動は月に1回あるかどうかだった。
もちろん新山に向けてチーム練習を行うこともなく、1年生のぼくとあべ(現:早大茶道部#2)は最低限のルールだけを覚えて北海道の地へ降り立った。
(第28回昭和新山国際雪合戦大会 早稲田雪合戦の会 集合写真)
なんか場違いじゃね
幹事長のおおえさん(現:早大茶道部監督)が「洞爺湖を一望できる温泉が最高らしい」との理由で宿舎には万世閣を選んだ。ぼくたちは思いがけず雪合戦の聖地の一つ"万世閣"に宿泊することとなった。
札幌発の直通バスに外国人観光客と共に乗り込み、気分はただの北海道観光だった。しかしロビーへ足を踏み入れた瞬間、観光気分は吹き飛んだ。ヘルメットをバッグからぶら下げ、統一のベンチコートに身を包み、静かに佇む大柄な男性集団があちこちに点在していた。「雪合戦ってこんなゴリゴリのアスリートがやるスポーツなのか…」と驚嘆した。
チェックインを済ませ部屋へ入ると窓から見える洞爺湖の眺望に感動を覚えたのも束の間、湖畔にある雪合戦コートが目に入った。先輩が地元の強豪チームの練習コートと教えてくれたが、ぼくにとって誰のコートかは重要でなかった。なんてたって初めて目にした雪合戦コートだ。そしてその大きさに「こんなに広いのかよ」と衝撃を受けた。
夜には申し訳程度の作戦会議を開き各人のポジションや役割を整理し布団に入った。「なんだか場違いな所に来てしまったな」と少し悔恨の念を抱き眠りについた。
※万世閣:正式名称は洞爺湖万世閣ホテルレイクサイドテラス。昭和新山国際雪合戦大会へ出場する多くの雪合戦チームが宿泊する。敷地内には地元の強豪チームの練習コートが併設されている。
ガチでやりてえ
迎えた大会当日、正直試合の内容ははっきりと覚えていない。記憶に残らないほどあっさりと負けた。気づいたら全滅しているかフラッグを奪取されているかだった。完膚なきまでに打ちのめされた。
ただ不思議とネガティブな感情は生まれなかった。それよりも「どうすれば勝てたのか」という問いで頭が一杯だった。その解を見つけるべく他チームの試合を観戦した。
衝撃が走った。
大の大人が勝利を目指し全身全霊を懸けて戦っていた。試合前には円陣を組み、相手をアウトにすれば「よっしゃー!」とチームで声を上げ、勝利には歓喜し敗北には悔し涙を流していた。「雪合戦はスポーツだ」と胸を打たれた。それと同時に「ガチでやりてえ」と心に火が点いた。横で観ていたあべも同じ想いだった。そして大学生活を雪合戦に捧げようと2人で誓い合った。
しかし本気で雪合戦に取り組む以前に4年生が卒業すると人材不足から早稲田雪合戦の会は存続の危機に瀕する状況だった。来る新入生勧誘で新入生を獲得できなければ大会への出場すら危うい状況であった。
大会終わりすすきののアパホテルでおおえさんとあべと朝まで新入生獲得戦略を練った。この会議があったからこそ今の早大茶道部があると言っても過言ではない。
(つづく)