配っても配っても終わらない
早稲田大学には毎年約1万人もの学生が入学する。その新入生を1000以上あるとも言われるサークルが奪い合う。早稲田において新歓は戦争なのだ。
新歓でのメインイベントは3日間に渡る入学式でのビラ配りだ。その光景は人間を大量のゾンビが襲うバイオハザードのワンシーンのようだ。新入生が一度ビラを貰おうものならその上に次々とビラを乗せられていき、大量のビラを持ち帰ることとなる。
そんなビラ配りは新歓戦争の勝敗を大きく左右する。新入生は受け取ったビラを見て、興味を持ったサークルのSNSを覗き雰囲気を掴み、"あり"と思えば実際に参加してみるという導線を辿る。つまり、戦場の中で配ったビラの枚数で勧誘可能な分母がある程度決まってしまうのだ。
その計算式に則り、ぼくらはひたすらビラを配った。1日中新入生を見つけるたびにビラを渡し続けた。用意したビラが途中で無くなりファミマのコピー機へダッシュするくらい配った。
地獄の新歓コンパ
ビラ配りの甲斐もあり新歓コンパには20人を越える新入生が参加してくれた。しかしコンパにぼくたち在校生は5人ほどしか居なかった。
つまり、在校生1人と新入生4~5人という地獄の卓が誕生する訳だ。当然ぼくたち在校生が音頭を取り卓を回し続けなければならない。
そんなコンパには大きなミッションがあった。サークルの健全性を立証し新入生から信頼を得なければならないのだ。雪合戦サークルはその得体の知れなさから"やばいサークル"というレッテルを貼られてしまう。コンパではそのレッテルを剥がすことが求められるのだ。
自身のコミュ力によってこの卓にいる4~5人の入会が左右されると思うと中々のプレッシャーだった。話が途切れないように、かといって自分だけが話すことの無いようにと配慮しながら、雪合戦やサークルの魅力を伝えていく。あんなにも時間の経過が遅かった飲み会は他に無いだろう…。
そんな頑張りのお陰で帰る頃には皆、まじめに雪合戦をしている人たちと認識してくれるようになった。
存亡の危機を脱する
体験練習にも多くの新入生が来てくれた。当時はぼくたち在校生もまともに練習をしていなかったことから、皮肉にも体験に来た新入生と全力で戦っても"接待雪合戦"のようになってしまった。故に新入生は本当に雪合戦を楽しんでくれた。
そして最終的に10人程度の新入生が早稲田雪合戦の会へ入会してくれた。早稲田雪合戦の会はなんとか存亡の危機を脱することができた。
ここで入会した新入生というのが早大茶道部の9人中6人を占める最大勢力、9期のメンバーだ。
この新歓での頑張りが無ければ、早大茶道部は愚か、早稲田雪合戦の会すら消失していたかもしれない。
(つづく)