圧倒的女子不足
「いったいどうすれば多くの女子を集めることができるんだ・・・」
3月初旬ぼくは頭を抱えていた。
第29回昭和新山国際雪合戦大会での大敗を経て、早稲田雪合戦の会は組織として勝利を目指すようになった。そして「第30回昭和新山国際雪合戦大会で1勝する」という明確な目標を掲げた。
この目標を達成するため、最初にやらなければならないのが女子チームの結成だった。直近2年間は新山へ参加できる女子の人数が大会出場に必要な7人達せず、一般リーグへ男子と共に出場していた。さらに4年生が卒業し早稲田雪合戦の会へ在籍する女子がとうとう5人になってしまった。
組織として勝利を目指すからには女性陣も同じ方向を向いて活動して欲しかった。そして何より、新山での大敗を機に最も雪合戦に目覚めていたのは、今や雪合戦界にその名を知らしめている"元気娘”だった。彼女の熱意に応えるためにも、4月の新入生勧誘(新歓)では女子を勧誘し入会に導く必要があった。
Twitterとの格闘
当時の早稲田大学の新入生は「ビラを貰いサークルを認知→Twitterで検索し詳細を知る→練習やコンパへ参加する」という導線を辿りサークルを取捨選択していた。
ただし、これは早大生に限った話だ。早稲田雪合戦の会はインカレサークル、早稲田大学以外の学生も所属できるサークルである。これまで特に女子は様々な大学の学生によって支えられてきた。つまり、女子を勧誘するためには早大生だけでなく他大学の学生まで広く勧誘する必要があった。しかし、多くの大学は大学近辺でのビラ配布を禁じており、ビラで認知を取るという手法が使えなかった。前述した導線のうちTwitterにダイレクトでアクセスして貰う必要があったのだ。
Twitter経由で認知を取るために多くのフォロワーを獲得することが必要であった。「適当にひたすらフォローすればいいのでは?」はじめはぼくもそう考えた。しかし新入生はフォロー数とフォロワー数の比重により、そのサークルが信頼に足るか判断を下す。フォロー数に対してフォロワー数が少ないと新入生から支持されていない、人気の無いサークルとの烙印が押されてしまうのだ。つまり、フォローをすれば確実にフォローを返してくれる層、早稲田雪合戦の会に関心を持ってくれる層を狙い打ちする必要があった。
「スポーツ雪合戦が刺さる人はどんな人なのか・・・」
授業で少しかじったことのあった"STP"などマーケティングのフレームワークを使いながら考えに考えた。最終的に新2年生への入会動機のヒアリングや自身の新入生時代の回顧を通して以下のターゲットを想定した。
- マイナースポーツに興味を抱く層
- 野球やソフトボール経験者層
- 勝利に拘ってスポーツに打ち込んだ層
数値化できるような根拠はなかったが、感覚的にこの層には刺さるという自信があった。
それからはターゲット層に当てはまる人を探すためエゴサーチを繰り返した。スポーツチャンバラやクリケットなどのマイナースポーツサークルをフォローしている新入生、過去のツイートとプロフィールから野球・ソフトボールの経験者や本気でスポーツに打ち込んでいた新入生を発掘しフォローした。とにかく3月中は暇さえあればTwitterを開き、ネトストと言われても何ら反論もできないくらい新入生のアカウントを漁った。すると狙い通りすくすくとフォロワーが増えてゆき、認知の獲得に成功した。
認知の獲得に成功し、次なるステップは練習やコンパに来て貰うことだ。
足を運んでもらうための最大の壁は”不信感”であった。スポーツ雪合戦サークルは名前だけ聞くと怪しさしかない。そして新入生は実態不明の怪しいサークルに対して容赦なく”飲みサー”や”ウェイサー”というレッテルを貼り距離を置いてしまうのだ。つまりTwitterでの発信を通して不信感を払しょくする必要があったのだ。
健全性を立証するためには、どんな人がいて・何をしている組織なのかを知って貰う必要があると考えた。特に力を入れたのがメンバー紹介だ。怖い人や変な人はいないということを明確に伝えるため、メンバー1人1人を紹介するツイートを作成し投稿した。TwitterというオープンなSNSで個人のプロフィールを公開することへ抵抗がある人も居ただろうが、「勝利という目標のために必要なこと」と理解し協力してくれた。それくらい本気で新山での勝利を目指すようになっていた。
体育館が密です
迎えた新歓練習や新歓コンパは大盛況だった。体育館は体育の授業かのように新入生で埋め尽くされ、新歓コンパの枠は一瞬で埋まった。
新入生に話を聞くと「Twitterを見て雰囲気良さそうだから来た」という人が圧倒的多数を占めた。女子を勧誘するためにTwitter運用を強化した結果、それが男子にも刺さったのだ。
練習やコンパに足を運んでくれれば入会へ導くことは簡単であった。なぜなら早稲田雪合戦の会には新山でスポーツ雪合戦に目覚めてしまった新2年生という最高の雪合戦プレゼンターがいたからだ。彼らは試合後の温泉で興奮気味に雪合戦を語っていた”あの時”の熱量を保ったまま、熱く新入生を勧誘してくれていた。間違いなく彼らの雪合戦への想いが新入生の心を入会へと動かしていた。
そして最終的に女子10人、男子40人のぴったり50人が入会してくれた。早稲田雪合戦の会史上最多の新入生が入会してくれたのだ。
さすがにこの代(10期)は途中で辞めていく人も多かったが、4年生となった現在も20人弱が在籍してくれており、早稲田雪合戦の会を支えている。
女子10人の入会により念願の女子チームを結成することができるようになった。また想像以上に多くの新入生が入会してくれた結果、日々の練習で試合形式の練習を行うこともできるようになったのだ。
新山での1勝を目指す上でこれ以上無い環境が整備された。
(つづく)